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福岡高等裁判所 昭和50年(行ケ)4号 判決 1977年6月16日

原告 横田真吾

<ほか一五名>

右一六名訴訟代理人弁護士 国府敏男

同 中山茂宣

同 国武格

被告 福岡県選挙管理委員会

右代表者委員長 宮崎時春

右訴訟代理人弁護士 植田夏樹

右指定代理人 松本茂昭

<ほか二名>

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

(申立て)

原告ら

昭和五〇年四月二七日に執行された福岡県芦屋町議会議員一般選挙(以下、本件選挙という。)の効力に関する審査の申立てについて被告が同年九月二五日にした裁決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

被告

主文同旨の判決

(主張)

一  請求原因

1  原告らは、本件選挙に立候補し、当選した。

2  訴外伊藤一美ほか四名は、本件選挙の効力に異議があるとして福岡県遠賀郡芦屋町選挙管理委員会(以下、町選管という。)に対し異議の申出をしたが、町選管は、昭和五〇年五月二六日右異議の申出を棄却する旨の決定をした。

3  そこで、右伊藤一美ほか四名は、被告に対し右選挙の効力に関する審査の申立てをし、被告は、昭和五〇年九月二五日右審査の申立てを認容する旨の裁決(以下、本件裁決という。)をし、右裁決は、同年一〇月九日告示された。

4  本件裁決の主文、審査申立ての趣旨及び理由並びに裁決の理由は、別紙裁決書記載のとおりである。

5  しかしながら、本件裁決には次に述べるとおり、事実の認定及び法令の解釈の誤りがあり、違法である。

(一) 事実認定の誤り

本件裁決は、別紙裁決書一二頁の一三行目から一五行目にかけて「……、かつ回答書には……、かえって深まったとさえ考えられる。」と認定しているが、右認定を証する証拠はなく、証拠に基づかない認定をしている。

また、本件裁決は、別紙裁決書一三頁の六行目から九行目にかけて「さらに町委員会は、……明らかである。」と認定しているが、捜査機関は、町選管に対し被疑事実や被疑者を告げず、また、調査の目的も明らかにしないで、住民基本台帳の閲覧、選挙人名簿の貸与の申込みをしたにすぎないのであって、町選管において右申込みを受けたことだけからそれまでに行った調査が不十分であったことを感知することは不可能であったのである。

(二) 法令解釈の誤り

本件裁決は、町選管の行った選挙人名簿登録のための資格調査及び登録手続が公職選挙法第二二条第二項及び同法施行令第一〇条の規定に違反すると判断しているが、町選管は、被登録資格の調査及び選挙人の確認を単に形式的に行ったのではなく、町選管の人的、物的組織における能力の限度において可能な限りの実質的調査確認を行ったのであって、町選管の行った右調査確認が右法令に違反する点はない。

(1) 町選管の組織と事務量

町選管は、委員長ほか三名の委員と書記長一名、書記二名の事務局によって組織されている。

町選管の書記長には芦屋町役場民生部住民課長が、同書記には同課住民係(係長ほか八名の職員で構成されている。)の係長ほか一名の職員が任命されるため、選挙事務処理は住民係が担当し、人手が不足する場合には係長のほか五名の職員で構成されている住民課国民年金係の職員が補助することになる。

住民係の係長ほか七名の職員は、約二万名の住民との接触窓口として多種多様な事務を処理するため多忙を極め、午前八時三〇分から午後五時までの勤務時間中他の事務を処理することは困難である。したがって、選挙関係の事務は、右勤務時間中は、書記長である住民課長、書記である住民係長及び住民係の前記一名の職員によって処理されているにすぎない。

町選管は、本件選挙並びに県知事選挙等に関し、昭和五〇年二月一日から同年四月二九日までの間に別紙町選管の行った事務内容記載のような膨大な事務を処理するかたわら、公明選挙実現のために本件選挙において初めて独自の「任意性選挙公報の発行」、「任意性ポスター掲示場の設置及び投票所入場券の改良」を自主的に実施した。

右事務を町選管事務局職員のみで処理することは不可能であったので、昭和五〇年三月一日から同年四月末日までの間に三月中は一名、四月中は四名の臨時職員を雇用して補助させるとともに、住民係及び国民年金係の職員の応援を求め、それらの職員の残業によって本件選挙の執行を終了したのである。

(2) 町選管の行った被登録資格の調査及び選挙人の確認

本件不正転入者の転入手続が行われた際にも、通常の手続に従って、町民税、健康保険、国民年金及びし尿処理等の関係から、担当者が転入者から、転入理由、家族構成及び勤務先等の事情を聴取し、転入の意思を確認しており、一応の調査は終了している。右転入届の受付手続を通じて、同一地番に多数の転入が行われているという不自然な現象に気が付いた町選管は、その実態を調査することにした。

町選管は、右調査方法について種々検討したが結論が出ず、右の実情を説明のうえ被告に指導を仰いだが具体的な調査方法が指示されなかったため、再検討の末、かねて被告が被登録資格の調査方法として最良であると推奨していた田川市選挙管理委員会の調査方法(第一次的に選管から転入者に対し往復ハガキによって所要事項について照会を行い、第二次的に右照会に対する回答のない者や回答の内容が不明の者について住居や勤務先に出向いて調査するという方法、以下、田川方式という。)を視察研究のうえ、右方式を採用することにし、本件ハガキによる照会及び臨戸調査を実施したのである。

町選管は、八九一名の転入者全員について戸別訪問による調査を実施することは時間的に到底不可能であり、また、芦屋町船頭町一番六、七号の転入者のみを調査することは、草野徳雄候補の選挙妨害となる虞があり、また、不公正であると考えたため、本件調査の限度に止どめたが、臨場調査又は呼出調査に代わる方法として、船頭町一番六、七号の転入者については次のような裏付調査を行い、第一次、第二次調査の結果の信用性を再度検討した。

イ 国民年金保険、国民健康保険の手続が順調に行われているか。

ロ し尿の料金は納付されているか。

ハ 町民税の申告、納付がされているか。

ニ 転入の理由となっている護建設株式会社の防衛庁の仕事、その他水巻町の仕事が現実に行われているか。

ホ 船頭町一番六、七号所在の建物に七〇名以上の居住が可能か。

右裏付調査の結果、イ、ロ、ハの手続は転入者として順調に行われ、ニについては現実にそのような仕事をやっており、ホについては町選管委員や書記等が日ごろ見分している現場の状況及び現場の見取図から検討の結果、居住可能との結論に到達したのである。

6  よって、原告らは本件裁決の取消しを求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1ないし4の事実は認める。

2  同5は否認若しくは争う。

(証拠関係)《省略》

理由

一  請求原因1ないし4の事実は、すべて当事者間に争いがない。

二  そこで、本件裁決に原告らの主張するような違法があるかについて判断する。

1  公職選挙法第二〇五条第一項にいう「選挙の規定に違反することがあるとき」とは、選挙の管理執行の任に当たる機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反する場合を指称することは明らかである。

公職選挙法第二二条第二項は、「市町村の選挙管理委員会は、……、当該市町村の選挙人名簿に登録される資格を有する者を選挙人名簿に登録しなければならない。」と規定し、同法施行令第一〇条第一項は、「市町村の選挙管理委員会は、……選挙人名簿の登録に当たっては、被登録資格を有することについて確認が得られない者を選挙人名簿に登録してはならない。」と規定している。

そこで、町選管が行った選挙人名簿登録のための資格調査及び登録手続が右法令に違反するか否かについて検討を加える。

2  認められる諸事実

(一)  町選管の組織と事務量

《証拠省略》によれば、町選管の組織と事務量は、原告らの主張するとおりであったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  町選管の行った被登録資格の調査等

《証拠省略》を総合すると、町選管の行った被登録資格の調査等に関して次の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない(原告らは、町選管が異常転入の実情を説明のうえ被告に指導を仰いだが具体的な調査方法は指示されなかった旨主張するが、町選管と被告との間にいかなる応答があったかについては、関係者の供述が対立しており定かでない。)。

(1) 昭和五〇年一月中旬ころ、町選管矢野書記長(住民課長)は原告らの主張するような通常の手続に従って転入届の受付事務を行っていた住民課窓口職員から同一地番に代理による転入者が非常に多い旨の報告を受け、また、町選管前田書記(住民課住民係主任)は、同月二〇日ころ、選挙人名簿を従来の簿冊方式からホルダー方式に切り換える作業をしている際、同一の住所に選挙人名簿登録予定者カードが多く存在するのに異常を感じた。現に、芦屋町船頭町一番六、七号(町選管から近距離にある。)においては、昭和四九年の定時登録時には一〇名の選挙人が居住していたにすぎないのに、昭和五〇年二月ころには最高八〇数名の者が転入している。

(2) 昭和五〇年一月二四日に開催された町議会第三常任委員会において、委員から、最近選挙前の異動が多いようであるが住民課担当課長はどう思うかとの質問があり、矢野課長は、できる限り広範囲に住民の実態調査をすべきであると答弁している。

(3) 住民課窓口職員は、同一地番に一定期間内(昭和四九年一二月下旬から昭和五〇年一月中旬までの間)に極端に転入者が増加し、かつ、その転入届の多数が代理人によって提出されていることに疑念を抱き、その理由を転入届を提出した者に質したところ、護建設株式会社(代表取締役草野徳雄)が防衛庁関係の事業を請け負い多数の人手を要するためであるという回答を受けた。そこで、町選管は、防衛庁に問い合わせたところ、護建設株式会社に仕事を請け負わせているという回答を受けた。

(4) 右草野徳雄に関しては、とかくの噂のある人物であるということは芦屋町ではいわば公知の事実であり、また、町選管は、同人が本件選挙に立候補するということを遅くとも昭和五〇年二月初めころには認識していた。

(5) 右のような事情を踏まえ、同月四日に開催された町委員会において、異常転入に対する対策が検討され、昭和四九年の定時登録から昭和五〇年一月一五日までに芦屋町に転入したすべての者(自衛隊芦屋基地に所属する短期訓練生三六名を除く。)について、引き続き芦屋町に居住しているか否かについての調査を実施する必要を認め、具体的調査方法等については、次回の委員会までに事務局案を作成する旨決定した。

(6) 町選管事務局は、かねて被告が推奨していた田川方式を検討することを思いつき、昭和五〇年二月二四日矢野書記長と坂田書記とが田川市選挙管理委員会に視察に赴き、田川方式を研究のうえ、右方式を事務局案として提出することにした。

(7) 同月二八日開催された町委員会において、事務局が提案した右調査方法により、前記転入者八九一名全員を対象にして、居住している者については、その勤務先又は学校名及び学年を、居住していない者については、転出年月日及び転出先又は学校名、学年及び下宿等の別を、居住しているか否かわからない者はその状況を往復ハガキで照会し(以下、第一次調査という。)、回答のない者については、家庭訪問による聞取り調査(以下、第二次調査という。)を実施することを決定した。

(8) そして、昭和五〇年三月五日から同月一〇日までの間に第一次調査を実施した結果、六七二名から回答があったが、その内訳は、芦屋町に居住していると回答した者六六二名、他の市町村に転出したと回答した者二名、学生のため他の市町村に下宿又は入寮していると回答した者八名となっている。なお、第二次調査着手前に第一次調査に対して更に七〇名から回答があり、これらの者はすべて芦屋町に居住していると回答している。そして、居住しているとの回答書には、数名の者によってまとめて記入されたものがあり、町選管も右事実を認識していた。

更に、昭和五〇年三月一四日から同月一六日までの間町選管の調査員二名を一組として二組で、第一次調査に対して回答のなかった者一四九名を対象に第二次調査を実施したところ、芦屋町に居住していると回答した者一二九名、他の市町村に転出したと回答した者八名及び実態不明の者一二名という結果になった。

この第二次調査において実態不明であった者一二名について、更にハガキ照会及び家庭訪問による調査(以下、第三次調査という。)を実施した結果、芦屋町に居住している者五名、他の市県村に転出している者二名、実態不明の者五名となった。

以上の調査の結果、調査対象者八九一名中、二五名が芦屋町に居住していない事実が判明した。

(9) 本件選挙は、定数二二名に対し三三名が立候補するという極めて競争率の高いものであった。

(三)  選挙人名簿の登録

《証拠省略》によれば、選挙人名簿の登録に関し次の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(1) 町選管は、昭和五〇年三月一八日に開催された町委員会において、同年四月一三日に執行された県知事及び県議会議員選挙のため男四一九名、女二五五名、計六七四名の選挙人名簿登録を議決し、即日登録した。これら登録者の名簿は、三月一九日から同月二三日までの五日間町選管事務室において縦覧に供されたが、登録についての異議の申出をした者はなかった。

なお、町選管では、四月一〇日に三名、同一一日に一名を補正登録している。

(2) 更に、四月一六日に開催された町委員会において、本件選挙のため男一三三名、女九九名計二三二名の選挙人名簿登録を議決し、即日登録した。これら登録者の名簿は、四月一七日から同月二一日までの五日間町選管事務室において縦覧に供されたが、登録について異議の申出をした者はいなかった。

(3) 前記(二)の(8)認定の芦屋町に居住していないと判明した者二五名についても町選管事務局の過誤により登録されたが、四月二七日の投票日前の同月一七日五名が職権消除されたため、五名については瑕疵は治癒された。

そして、瑕疵が治癒されなかった者のうち二名(そのほかに今別府優が投票しているが、同人は芦屋町に居住していたので投票は有効である。)が無効の投票を行った。

(四)  不正転入のあった地番における被登録資格の調査等

《証拠省略》によれば、本件選挙において不正転入のあった地番(芦屋町船頭町一番六、七号ほか二一か所)における被登録資格の調査、登録及び投票に関して次の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(1) 不正転入のあった地番において、調査対象とされた者は前記八九一名中一六六名であったが、そのうち第一次調査に対して芦屋町に居住していると回答した者一五一名、他の市町村に転出したと回答した者二名であり、居住しているとの回答書は、大部分が数名の者によりまとめて記入されており、町選管は右事実を認識していた。

第一次調査に回答のなかった一三名が第二次調査の対象者とされ、本人と面接はできなかったが、勤務先の者又は近隣者から居住しているとの回答を受けた者は七名であった。残る六名が第三次調査の対象者となり、調査の結果二名が他の市町村に転出していたので転出届を提出するよう指導し、四名については実態が不明であったので、住民基本台帳から職権消除された。したがって、不正転入者に関する地番の調査結果は、芦屋町に居住していると回答した者一五八名、他の市町村に転出したと回答した者四名、実態不明の者四名であった。

右調査により、一五八名が選挙人名簿の被登録資格を有する者とされたが、登録基準日前に他の市町村に転出した者一三名が除かれ一四五名が登録されるべきところ、更に八名が町選管事務局の過誤により登録され(前記(三)の(3)の二五名のうちの八名である。)、計一五三名が登録されている。

そして、右一五三名のうち一二名は芦屋町に居住していることが明らかになったので、被登録資格を有しない者の登録は一四一名であり、うち一一五名が投票している。

(2) 船頭町一番六、七号に関しては、七五名が調査対象者とされ、第一次調査により芦屋町に居住しているとの回答があった者は七一名、他の市町村に転出したとの回答があった者二名であり、第二次調査の対象となった者は二名である。第二次調査では町選管の調査員二名が護建設株式会社の事務所を訪問したところ、同社社長室長小松守弥が応対し、「調査対象の二名の者はあそこに住んでいる。」と草野徳雄宅の裏に建っている長屋を指したのでその回答を信用し、それ以上の調査は行われなかった。

更に、昭和五〇年四月一六日に開催された町委員会において、当該地番に関する住宅見取図により七〇数名の居住が可能か否かについて検討が加えられ、居住可能との判断がなされた。

右調査により、七三名が選挙人名簿の被登録資格を有する者とされたが、登録基準日前に他の市町村に転出した者九名が除かれ六四名が登録されるべきところ、更に二名が町選管事務局の過誤により登録され(前記(1)の八名のうちの二名である。)、計六六名が登録されている。

そして、四名は芦屋町に居住していることが明らかとなったので、被登録資格を有しない者の登録は六二名であり、うち五七名が投票している。

(五)  捜査機関からの協力依頼

《証拠省略》によれば、昭和五〇年三月三一日から本件選挙の投票日の前日である同年四月二六日までの間、捜査機関から数回にわたり町選管事務局に対して、選挙人名簿抄本、住民異動届関係書類等の閲覧、貸与についての協力依頼があった事実が認められる(なお、右協力依頼に際し、その目的等を告知したか否かは定かでない。)。

3  原告らは、本件裁決には請求原因5の(一)記載のとおり、事実認定の誤りがある旨主張する。

しかしながら、前記認定の事実関係に照らせば、第一次調査に対する回答書には同一筆跡のものが多数存在していたのであるから、町選管が当初抱いていた疑念は少しも解明されなかったといわざるをえず、また、仮に協力依頼の目的等が告知されなかったとしても、捜査機関から数回にわたり選挙人名簿の抄本等の閲覧、貸与方の協力依頼があったという一事から町選管の従前の調査が不十分であったことを感知しうる状態にあったことは明らかであるといわざるをえず、本件裁決には所論の違法はない。

4  以上認定の諸事実を総合すると、本件選挙においては不正転入の疑いが非常に濃厚であったといわざるをえず、町選管は、本件選挙を管理執行するうえにおいてなすべき選挙人名簿の登録に当たり、特に慎重な被登録資格の調査を実施し、適正な登録を行うべき注意義務を負っていたものといわなければならない。

原告らは、町選管は人的、物的組織における能力の限度において可能な限りの実質的調査を行ったのであって、被登録資格の調査及び登録手続には何らの法令違反もない旨主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、船頭町一番六、七号については、昭和四九年の定時登録時には一〇名の選挙人が居住していたにすぎないのに、昭和五〇年二月ころには最高八〇数名の選挙人が転入してきており、右転入届の多数が代理人により提出され、かつ、調査対象とされた七五名中居住していると回答した七一名の回答書中には同一筆跡のものが多数存在していたのであり、また、護建設株式会社の代表取締役であり、とかくの噂のある草野徳雄が立候補するという事実を町選管は遅くとも二月初めには把握していたのである。更に、町選管は、船頭町一番六、七号という狭い地番に七五名もの選挙人が居住できるものか否かについて疑問を抱きながら、町選管から近距離にあり容易に調査可能な現地に赴いて居住の有無を確認する努力を怠り、住宅見取図によって七〇数名の者が居住できるか否かを検討し、居住可能との結論を導いたのである。

右のような事情を考慮すると、転入に際し国民年金保険、国民健康保険、町民税等に関する所要の手続が履行されており、かつ、転入の理由となっている護建設株式会社の仕事が現実に行われていることが確認されていたことを考慮してもなお、船頭町一番六、七号に居住する選挙人に関する限り被登録資格を有することについての確認が得られたものと認めることは到底できない。

前記認定の町選管の組織と事務量からみて、限られた期間内に本件選挙人名簿登録予定者全員について、被登録資格の有無の調査を完全に遂行することはあるいは困難であったかもしれないが、少なくとも最も疑問の多かった船頭町一番六、七号に居住する選挙人の被登録資格の調査を戸別訪問等により徹底的に行い、被登録資格を有する者のみを選挙人名簿に登録することは、調査対象者数及び調査地の地理的状況等からみて十分可能であったと考えられる。

なお、原告らは、船頭町一番六、七号の転入者のみを調査することは草野徳雄候補の選挙妨害となる虞れがあり、また、不公正であると考えたために戸別訪問等の調査を実施しなかった旨主張するが、船頭町一番六、七号の転入者については特に不正転入の疑いが強く、また、選挙人名簿登録予定者の被登録資格についての確認が得られるまで実質的調査を実施しうることは、公職選挙法施行令第一〇条の規定に照らし明らかであり、原告らの右主張を採用することはできない。

以上の説示から明らかなとおり、町選管は、不正転入の疑いが特に濃厚であった船頭町一番六、七号については特に慎重な被登録資格の調査を実施し、適正な登録を行うべき注意義務を負っていたにもかかわらず、右義務を怠り、被登録資格についての確認が得られない者を登録することにより、船頭町一番六、七号に関して五七名に及ぶ無権利者の投票を誘引することとなったのである。

してみると、町選管の行った被登録資格の調査及び登録手続は、少なくとも船頭町一番六、七号に関する限り、公職選挙法第二二条第二項、同法施行令第一〇条に違反するものと断ぜざるをえない。

5  そこで、次に右違法が本件選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるかについて検討するに、《証拠省略》によれば、最下位当選人の得票数は三三七票、次点者の得票数は三二一票であり、両者の得票数の差は一六票であることが認められる。そして、右違法な登録に基づく投票数は五七票(なお、この五七票のほかに前記2の(三)の(3)の登録の瑕疵に基づく二票が存在する。)であるから、本件選挙の管理執行について前記の瑕疵がなかったとすれば、本件選挙は前記と違った結果になったかもしれない。

してみると、右は公職選挙法第二〇五条第一項にいう「選挙の結果に異動を及ぼす虞れがある場合」に該当するものといわざるをえず、本件選挙は無効というべきであり、本件選挙を無効とした本件裁決には原告らの主張するような違法はない。

なお、本件裁決は、別紙裁決書一五頁の四行目から一四行目にかけて選挙人の確認について判示しているが、被告代表者宮崎時春本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、これは、投票当日選挙人の確認が慎重かつ適切に行われていれば、あるいは投票を拒否するなどの方法によって本件選挙を無効としないですんだかもしれないという事情を述べているにすぎないものと解される。

三  以上によれば、本件裁決は相当であって、原告らの請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中池利男 裁判官 鍋山健 原田和徳)

<以下省略>

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